第9話 雪眼の怪
紫外線障害が冬に。なぜ?

 これから季節は暑い夏へ向かいますので、涼しいお話を、と言う訳でもないのですが、日光による紫外線障害が夏にはそれほど問題にならなくて、なぜ冬の雪眼が有名なのか、これについてお話ししましょう。

 スキーや雪山登山で、天気の良い時にゴーグルやサングラスを使わずに過ごすと、夜、目が充血し、耐え難い痛みに襲われることがあります。これは日光のなかに含まれる紫外線で、黒目、角膜の表面が障害されてキズが付くためです。これを一般に雪眼と呼びます。昼間はそれほどではありませんが、夜になって風呂から上がった頃に痛くなることが多いようです。
 紫外線は波長によっては目の中まで入り、白内障を早く起こしたり、網膜の中心部の炎症(黄斑変性症)が起きる一つの要因になったりしますが、大部分は目の表面、角膜で吸収されます。このため目に紫外線照射を受けると、角膜障害を起こすことがほとんどです。

 この紫外線による角膜障害は電気溶接の火花を見続けたり(電気性眼炎)、殺菌灯の消し忘れなどでも起こります。このような場合は季節には当然、関係ありませんが、日光による場合は季節に関係するだろうと予想できます。
 しかし、ふつう常識で考えれば、紫外線の強い夏、6月から8月に多いのでは、と思うでしょう。ところが、日光による紫外線障害は「雪眼」という名前の通り、冬に多発します。

 なぜでしょう?
 人間は、鳥や樹上生活している生物と違い、いまや2次元で行動する動物で、平面上を水平に移動しています。このため、戸外を歩いたりする時も、水平から下を見ていることがほとんどで、水平より上を見たり、見上げたりすることはほとんどありません。
 実は、これが眼にあたる紫外線の量に大きく影響しています。

 研究によりますと、春分、秋分の日の正午の太陽の位置で、顔が水平から上を向いていると、かなりの紫外線が眼にあたりますが、水平か、あるいはそれより下を向いている時は、ほとんど入らないという結果が出ています。
 夏は確かに紫外線は強いのですが、ふつうに街を歩いたりしているだけであれば、ほとんど上を向くことはないので、紫外線は眼に影響を及ぼすほど入らないのです。このため日光による角膜障害を起こす人はほとんどいません。
 冬は紫外線が弱いのですから、街での普通の日常生活をおくる限り、これもまた紫外線による角膜障害を起こすことはまずありません。

 ところが、一面に雪が積もっていて、天気が快晴となると話は違います。
 かなりの量の日光が雪原で反射しますので、こんどは紫外線が下から顔を照らすことになります。ですからスキーや山登りの時に下を向いていても、どんどん眼に入ってきます。
 これが弱いはずの冬の日光で、紫外線による角膜障害を起こしやすい理由です。

 紫外線による角膜障害は、とんでもない悪い病気という訳ではありませんが、夜は眠れなくなるほど辛くなりますので、スキーや登山では必ずサングラスかゴーグルを使いましょう。
 夏でも、白い砂浜や凪いだ海面では日光が反射して、冬の雪面と同じような状況になることがあります。気を付けましょう。

 また、電気溶接では位置決めなどの時にはずした防護メガネやマスクを、必ず再装用して作業して下さい。厨房や実験室では夜間、人がいない時に紫外線による殺菌灯を点けているところもありますが、一般照明を付けた時に、この殺菌灯を消し忘れていると、高率に角膜障害を起こしますので、気を付けて下さい。

<補足>
 ただ、最近では「日常生活では大丈夫」なんて言えなくなって来ています。オゾンホールの影響で、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは、冬の紫外線量が夏の東京のそれより多くなっています。このため小学生がサングラスをかけて登下校という事態になっているところもあり、大きな問題になっています。
 白内障や網膜障害は、角膜障害と違ってすぐに症状が出ません。季節を問わず直射日光の下で長い時間過ごされる時は、紫外線にご注意下さい。