第12話 DNAの深慮遠謀
生物進化の裏側

よもやま話バックナンバー
第1話 犯人は誰だ
第2話 眼科検査は映画館!?
第3話 岩の滝登り!?
第4話 兎追いし・・・
第5話 なぜ?花粉症の激増
第6話 高級デジカメより、もっと凄い
第7話 目の動きは超精密
第8話 過ぎたるは・・・
第9話 雪眼の怪
第10話 スイッチ、切る方が速い
第11話 網膜剥離の謎

 地球上に生まれて来たたくさんの生物は、単細胞生物から哺乳類、鳥類などに至るまで、厳しい生存競争の中で自分自身が生き残るため、食べ物を確保し外敵から身を守ることに努力してきました。また、同時に、自分の子孫を残すためのあらゆる工夫、努力も怠っていません。

 雄は、出来るだけ多くの雌に自分のDNAを授けようと、他の雄と闘い、雌は出来るだけ優秀な雄のDNAを受けようと多くの中から強い雄を選ぼうとします。
 

 鹿の中には、脳震盪を起こすほど激しくぶつかり合って、雌を取り合うものもいます。砂漠に棲むある種の陸亀は、相手をひっくり返せば勝ちという相撲のようなルールで戦いますが、ひっくり返されたまま起きあがれなければ、砂漠に容赦なく降り注ぐ強い日差しで死んでしまうと言う厳しい闘いでもあります。一方、もっと平和的に角の長さだけで静かに優劣を決めるイッカクのような海獣もいますし、鳥の中には姿形や声、踊りあるいは産卵用の巣の出来映えで雌の気を引こうとするものもいます。また、霊長類の中には、どこかの国の政界のように、引退した元実力者の応援や若者の人気を集めてハーレムの頂点の奪い合いに勝利するものもいます。

 弱ければ子孫を残せないかといえば、そうでもなく、身体の小さなサケはまともに戦っても大きな雄に勝てないので、産卵場所で雌のふりして産卵中のカップルに近づき、隙を見て卵の上に自分のDNAをばらまくという頭脳プレーで子孫を残します。

 このように、あらゆる生物がいろいろな工夫、努力をして、自分の子孫を残そうとしているのですが、それはそのまま、その生物の種全体の繁栄にも繋がります。強い、優秀な個体が優秀な子孫を残し、さらに、その優秀な子孫の中でも強い優秀なものが子孫を残す、と、どんどんその種全体が強く、優秀になって生存権の中で生き残り、同胞の数を増やしていけるからです。さらに、世代を重ねるごとに徐々に進化もし、環境に適応し、地球上に確固とした地位を築いていくことになります。









 あれ、そうすると・・・・

 もともと、ひとつの個体が自分自身の子孫を残そうとして努力したことが、群れ全体、ひいては種全体の繁栄・維持へと発展し、進化をすれば、さらに上の生物へと繋がり拡がっていきます。進化の系統樹はどんどん枝を広げて、上へ上へと伸びていきます。こうなると、もう個体レベルの話ではなく、生物全体(それも地球上の過去から未来への全て)の話になってきます。個体の寿命は長くとも百年少々ですから、何億年もの生物全体の流れからすれば、ほんの一瞬です。個体の意志が一瞬しか続かないとすれば、この大きな流れを司っているのは何なのでしょうか?それは「神」でなければ、DNAかもしれません。

 DNAは、ご存じのように、地球上の全生物に共通の設計図のための暗号と言えます。個々の個体の意志は一瞬ですが、DNAは少しずつ変化しつつ、地球上の初めての生物から現在生きている生物へとずっと繋がっています。ですから、DNAの自分を残そうとする意志が、個々の生物の意志へと反映されているとの考え方があります。DNAは、自分の乗り物、つまり生物がいつでも地球上にあるように、強い優秀なものを残し、もし滅亡するような種があっても他の種が生き残るように、生き物のバリエーションを増やし続けている、という考えです。

 



 これは、あくまでひとつの考え方です。無機質に見えるただの塩基配列(*)の中に、大いなる意志があるとは俄には信じられませんよね。でも、その単なる暗号から一個の人間が形作られ、極めて複雑な事を考えているのですから、その元の暗号の列の中に何らかの意志が隠されているとしても不思議ではないかもしれません。

 しかし、われわれがDNAが乗るただの乗り物、それも古くなれば次々と新しいのに乗り換えられてしまう、というのも少し寂しい話ですね。個々の生物はそれぞれ精一杯生きていますからね。やっぱり、こんな話は忘れてしまいましょうか。

 *塩基配列: DNAは、アミノ酸が繋がったもので、、アミノ酸の一部が塩基です。この塩基に4種類あり、この配列が暗号のようになっていて、様々な情報が隠されているのです。