第4話 兎追いし・・・

 盆地に拡がる田畑、その中を流れる小さな小川、短い橋の向こうに見える鎮守の森、穏やかな山の麓に点在する藁葺き屋根、このような風景が多くの日本人が心に抱く「ふるさと」のイメージでしょう。
 童謡や唱歌には、春の小川、おぼろ月夜、夏は来ぬ、もみじ、冬景色など、「ふるさと」の情景を歌ったものがたくさんあります。その中で、皆さんもよくご存じの、そのものズバリ「ふるさと」があります。
 その歌い出しの、「うさぎおいし・・・」は小学生の頃、ウサギが多いのか、美味しいのか、とかなり悩んでいましたが、それはさて置き、兎を捕まえることがいかに難しいか、眼科学的な面からお話ししましょう。
  目には見える範囲、視野というものがあります。目を動かさずにどこまで見えるか、ということです。ヒトの場合、水平方向は、片目で耳側は100゜、鼻側60゜ですが、左右の視野の重なりが大きいため、両眼での広がりは約180゜となります。

 ではウサギはどうでしょう。

 何らかの病気で瞼が閉じにくくなった状態を「兎眼」と呼ぶように、ウサギの目は皮膚面から飛び出しています。このため片目で視野が180゜以上ある上に、両目が顔のほとんど横についているので左右の視野が重なりが少ない分、両目での視野は広く、なんと!360゜なのです。

 後ろからそっと近づいて、ウサギを捕まえようなんて、どだい無理なんだ、ということがお解りでしょう。



 このような両目での視野の広がりの違いは、他の動物でも見られます。主に肉食のネコやイヌ、ライオンやトラなど、正面から両目が真っ直ぐ見える動物は左右の視野の重なりが大きく、両目での視野は狭くなります。一方、草食性のウマやウシ、ヒツジやヤギは、左右の目がほぼ横につき、両目での視野は広いのです。
 鳥でも同様で、ツバメ、ワシやフクロウは正面、スズメ、ニワトリやインコは横に、といった具合です。

 動いているものを追いかけ、飛びかかるためには、立体的にものを見なければなりません。このためには両眼の視野がある程度大きく重なっている必要があります。視野の重なりが大きくなると、両眼で合わせた視野の広がりは狭くなりますが、他の動物を襲うぐらいですから、ある程度強く、すばしこいので、自身が襲われる心配は少なく、後が見えなくても大丈夫なのでしょう。
 他方、動かない草を食べる動物は、立体的に見る必要は少なく、それよりむしろ両眼での視野の広がりを確保して死角をなくし、襲われないようにすることのほうが重要です。
 では、ヒトは何故、正面向きに両目がついているのか、という疑問が湧きますが、 もともと肉食の動物から進化したとか、密林の生活が長く、木から木へ飛び移るためには立体感が必要だった、などと言われています。理由はともかく、立体的に見る能力が器用に物を作ったり、使ったり、その後の文明の発達に寄与したことは間違いありません。

 一度、時間がある時に、身近な動物と、目の付き方を比べてみて下さい。