第7話 自動追尾なんて、当たり前
目の動きは超精密

 第6話では、ヒトの眼の見るという機能が、どんなハイテクカメラと比べても素晴らしいというお話をしましたが、今回も引き続き、ヒトの眼の凄さについてお話しします。

 ヒトの眼は、ひとつでも高級カメラ以上の働きをしていることは前回お話ししたとおりです。なのに、2つあるのは、第4話でも少し触れたように、視野(見える範囲)を広く確保したり、2つの目で見ることによって立体的に、奥行き感を持って見ることが出来るからです。
 しかし、そのためには両方の目の視線が目標物でピッタリと合ってなければなりません。なぜなら少しでも視線がずれると、物が二つに見えてしまうからです。病気や怪我などで、少しでも両眼の視線がずれると、患者さんは大変です。2つに見えると言っても、テレビ画面のゴーストのように輪郭が二重になると言うものではなく、全く同じものが二つ見えるのですから。自分の手も倍になるのですから、食事をしたり、トイレに行くのも大変です。

 ということは、大部分の人はちゃんと物が一つに見えているので、両眼の視線がいつもピッタリ合っていると言うことになります。これは実は凄いことなのです。




 なぜなら、ヒトの眼は、車のワイパーのように、単純に、一緒に、平行に動いているだけではないのです。

 遠くを見る時は両眼の視線はほぼ並行に、だんだん目標物が近くになると、それに合わせて寄り目になってきます。そうでないと目標物から、どちらかの目の視線がズレるからです。目標までの距離によって、寄り目の程度は変化します。それがあらゆる方向、水平、垂直、斜め、で、目標までの距離に関わりなく、常に両眼の視線を目標物で一致させているのです。

 さらに、眼球の置かれている状況を考えてみて下さい。
 たとえば、眼球が完全に球体で、眼球運動の支点が眼球のちょうど中心であれば、コンピュータ制御で両眼の視線をズラさないモデルを創れそうです。
 ところが、実際の眼球は、ちょっと滑りをよくするための脂肪が入った、やや歪な四角錐型の骨のくぼみに嵌め込まれています。その中で、ほんとうに小さな6つ(片目につき)の筋肉に引っ張られて、動いています。
 こんな、いい加減な状態で、視線が全くズレないなんて、凄いとしか言いようがありません。


 では、ヒトの眼の動きは、どんな風にコントロールされているのでしょうか。








 小さな6つの筋肉のうち、外側のものと、上に斜めに付いているものは、それぞれ別々の神経で制御されています。他の4つの筋肉、上、下、内側と下の斜めの筋肉は同じ神経でコントロールされます。3つの神経はそれぞれ脳にある小さなコンピュータに繋がっていて、そこから指令を受けています。

 さらに、そのコンピュータに命令を送ったり、動きの早さを決めたり、左右の眼球の動きのバランスを取ったりする、いくつかの別の小さなコンピュータが繋がっています。身体や頭の傾きにも対応して目も傾けるので、身体の傾きなどを骨格筋の緊張を調節して総括制御している小脳や、頭の傾きや回転を感知している耳の三半規管の小さなコンピュータとも繋がっています。

 その上で、両眼の網膜に映った2つの像のズレを脳の物を見る部分で感知し、その情報を先ほどのコンピュータ・ネットワークに送り込んで微調整を行っています。また、同様に網膜に映った像の情報を元に、動く目標を目で追い続けるために、目標の像が網膜の中心からずれないよう、目の動きをコントロール出来ます。自動追尾ですね。

 



 以上のようにいろんな細々した情報が、脳の中をあちこち巡って、その結果目が動くのです。ある時は数学的に厳密に、ある時は極めて曖昧にコントロールされて、両眼の視線は見たいものの上でピッタリ合っているのです。やはり、それは凄いことなのです。

 ヒトに近い歩き方が出来るロボットが話題になっています。工学技術の進歩で、かなり人の身体の機能を真似ることが出来るようになりました。しかし眼球の働きをそのまま人工的に作り出すのはまだ難しいようです。何も構造をそのまま真似る必要はありませんが、機能的にもまだヒトの眼を超えることは出来ません。
 それほど、ヒトの眼はものを見るという点では頂点を極めていると言えます。しかし、近い将来、もう少しヒトの眼の機能に近いものが人工的に作ることが出来たなら、それは病気で視力を失ったり、目の動きが悪くなった人に素晴らしい朗報となるでしょう。

 機会があったら、人工網膜などの話題にも触れましょう。